忍足のサプライズ




部活が終ったあと、跡部は忍足を連れて、独り暮らしのマンションへ向かう。

忍足の手にはずっと朝からあった謎の小さい箱があったが、

跡部は何も聞かないでいた。

忍足なら驚かせようと何かサプライズ的なものを

用意しているのだろうと思ったからだ。

今日は跡部の誕生日。

付き合い始めてから、お互いの誕生日は二人きりで過ごすことに決めていた。

忍足の方がそういう、記念日とかが好きだったのもあって、好きにさせることにした。

跡部も二人きりで過ごすことに反対はなかったからだ。

セキュリティー万全の出入り口に警備員が常備立っている。

ほぼ、顔見知りの警備員が二人を見ながらも、顔色ひとつ変えない。

それでも、警備員は思うのだろう。

時間があれば、ほぼ跡部のこのマンションで過ごすことが多い忍足にとって、

特別な存在なのだろうか、と。

そんなことを忍足は思いながら、エレベーターに乗り込む。

跡部の部屋は最上階とはいわないが、かなり高い場所にある。

中学生の独り暮らしで高い場所にあるのは色々と危険な気がするが、

跡部てきに最上階がよかったらしいが、無理だったらしい。

カード式のオートロックの鍵を開け、部屋に入る。

使用人が掃除をしてくれたのか、毎回入るたびに室内が綺麗になっている。

さらに今日は誕生日だけあって、作ったばかりの料理がテーブルに所狭しと並ぶ。

相変わらず、跡部の使用人は仕事が早いと思う。

「跡部、冷蔵庫借りるわ」

忍足は部屋に入るなり、持ってきた箱を冷蔵庫に入れた。

入れ終わると、いつもと同じように、荷物を適当に置いて、

クローゼットから部屋着を取り出し着替える。

「それにしても相変わらず、豪華やな…」

料理を見つめ、忍足は慣れたとはいえ、そうつぶやく。

「いい加減慣れろよ、忍足」

「そうはいってもな〜」

本来ならここでお洒落にお酒でもといいたいが、

まだ中学生なので、ジュースで乾杯をした。

「跡部、誕生日おめでとう」

忍足の日課になりつつある言葉。

二人っきりで誕生日を祝う。これ以上の至福のときはない。

やはりこういう日は好きな人と過ごしたい。

たわいな話をして、テニスの話をして、盛り上がる。

時折、忍足のラブロマンスを聞かされる。

「あ、そや。もう冷えたやろか…」

忍足はそういって、冷蔵庫にいれた箱を取りに行った。

跡部はどんなサプライズを用意しているのか、

顔には出さないが内心わくわくしていた。

「忍足、今年はどんなサプライズ用意してんだ?詰まんなかったら許さねーぞ」

跡部はそういうと、戻ってきた忍足はニヤニヤしていた。

「今年は跡部も驚くはずや」

箱をテーブルに置いて静かにフタをとった。

ジャーン

そこにはどうにもいびつな形をした、いかにも手作りしたケーキがあった。

「忍足、お前が作ったのか?」

「そうや、形はいびつになってしもうたけど、味はオッケーやで」

多分初めて食べるであろう、忍足の力作ケーキに跡部は少し不安そうになったが、

せっかく作ってくれたのだから、食べてみようと思ったが。

その横で忍足がホークにケーキを指して跡部の顔に近づけた。

「跡部、ほな、あ〜ん」

そんな恥ずかしいことできるか。と思いつつ、

引き下がらない忍足に跡部は口を開いた。

忍足はそのまま、ケーキを放り込んだ。

「お前にしてはイケルな」

意外に悪くない味に跡部はもうひとくち口に運ぶ。

そんな様子を忍足は嬉しそうに見ている。

「忍足、楽しいか?」

「跡部のそんな顔、滅多に見られへんからな〜」

跡部は恥ずかしさで舌打ちをすると、忍足の顔に近づける。

そのまま、唇を重ねた。

「忍足、最高の誕生日だぜ」

忍足もその跡部の温もりを感じていた。

「あ、跡部。ケーキやけど、真ん中切ってもらってええか?」

忍足は思い出すようにそういって、跡部を自分の体から引き離す。

跡部は少しムッとしたが、ケーキをナイフで半分に切る。

下の方からちいさな袋にが出てきた。

「跡部、改めて、誕生日おめでとさん。プレゼントや」

そういって、忍足はその袋を跡部に渡す。

金の三日月のネックレスだった。

「跡部、俺とお揃いや」

忍足は首にかけているネックレスを跡部に見せた。

銀の星のネックレスで、跡部にプレゼントした金の三日月のネックレスとは対になっているものらしい。

「何で、俺様が三日月なんだ?」

跡部の質問に忍足は顔を赤らめながらいった。

「この間、月を見てたら、その近くに明るい星があったんや。

ずっと、あの星と月のように一緒にいられたらええな…と思ったんや」

跡部はそんな赤くなった忍足が愛おしくなった。

「忍足、いられたら…じゃねーよ。ずっと一緒だ」

跡部は忍足を抱き寄せると再び、忍足の唇にキスを落とした。



その後、いつものように忍足は泊まったとさ。





おわり